座学ではなく、実践の場を提供
ここ数年で新規事業やイノベーションに取組むメーカー企業からの問い合わせが非常に増えました。
今回はその中でも「技術者が研究所に閉じこもってビジネスが生み出されない」という課題を持つクライアントのイノベーションワークを支援した事例を紹介します。
クライアントである大手家電メーカーの開発部門では、技術者向けのビジネス研修を何度も実施してきたものの、実績が伴わない状態が続いていました。「過去のプロジェクトではことごとくやらされている感が漂っており、参加メンバーの主体的な取組みに繋げられていない」というのが実情でした。
そこで、私たちはそれまでとは全く毛色が異なる、実践を中心とした研修を提案しました。
研修内容は、素早くビジネスモデル仮説を立て、社外顧客やパートナーの生声を通じてそれを磨いていくというもので、一言でいうと、「ビジネスモデル検証の実践プログラム」です。
正直クライアントが練っていた計画をまるっと変更する必要がある内容だったものの、この転換が功を奏すことになります。
意外?なイノベーションリーダーの発掘
「新規事業に正解はない」とよく言われますが、同じ理由でフレームワークの利用には注意が必要です。フレームワークに当てはめて答えが得られる場面は、ほぼないからです。
ですが、私たちは「仮説をさっと立てて、現場でビジネスモデルを磨く」というスタイルです。基本となるフレームワークはシンプルな3C(自社・顧客・競合)で、使い方そのものは汎用的なので、素早く仮説を立てられるのです。
そして、「ビジネスモデル検証の実践プログラム」で、もう一つ肝となるのが生声を拾ってくることです。この工程で、アポ代行サービスや自社関連会社に頼りがちですが、利害関係者である以上、本音を引き出すことは難しいですし、将来的にビジネスパートナーにも顧客にもなり得ません。
実際、この研修の多くのメンバーのヒアリング状況がその通りの状況だったのですが、一人のメンバーがここで突破口を開きました。
そのメンバーは、技術面・ビジネス面のどちらにおいても知識や経験が乏しい若手技術者だったのですが、自分が開発している技術をビジネスにつなげたいという気持ちが強く、仮説を立てては、貪欲に顧客候補にヒアリングを実施していました。事業部長クラスへの提案機会を獲得するなど徐々にビジネスの現実化に近づいていき、そのメンバーの活躍により活動全体のムードが盛り上がっていきました。
結果、わずか半年の間に、具体的な事業案を生み出し、社外パートナー候補から「事業を一緒に進めたい」との声を得るフェーズまで進めることに成功し、既存事業部署への協力もすぐに取り付けることもできました。
そして、その意欲の高さと行動が評価されその若手技術者はイノベーションリーダーとして周囲に認識されるようになりました。こういった想定外が起こるのが実践的なプログラムの面白いところです。
技術者のDNAに刻まれた「実験」をビジネスにも
イノベーションとは「新結合」です。「イノベーションのジレンマ」のクリステンセン教授も「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考がイノベーターのDNA」と表現しています。技術開発に携わる人にとってのイノベーションとは、技術開発自体はもちろんですが、その技術をビジネスに結びつけることに他なりません。
そして、ビジネスとの結合点を知るもっともシンプルで成功確率の高い方法は、積極的に社外に出て顧客やパートナーの声を直接聞くことです。
課題設定と仮説検証を日常的に行う技術者にとって、ビジネスモデル磨きは本質的に馴染みやすい活動です。私たちがハッチングと呼ぶビジネスモデル検証活動は、まさに「実験」に他なりません。
※この記事は秘密保持のため一部フィクションが含まれています
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